第4話「友の支え」

強いと思っていた自分たちの思いとは裏腹に初めての路上ライブからほとんど何もすることなく彼らは時間を過ごしていた。

しかしそんな中偶然知り合ったバンドさんが紹介してくれるということで一つのライブの話しが舞い込み、自分たちは何もしないままに初めてライブハウスでのライブが決まった。

当時の彼らにとってライブハウスはどこか怖くて、近寄りがたいものだった。
決まったのはいいがそんなにはやりたくない。
そんな感覚だった。

それが彼らにとって初めてのライブハウスでのライブとなった、

2010年2月28日のことである。

場所は大阪の心斎橋。
よく見せたいとかうまく歌いたいだなんて考えていると緊張は前日から最高潮に達した。

しかし彼らはそのライブの宣伝を全くしなかった。
たった一度の路上ライブしかしていなかった彼らにとって宣伝できる相手は皆無だったということもあったが、友人にさえほとんど何も言わなかった。
今回は初めてだし、誰かに見てもらいたいというわけではない。
むしろ誰にも見られたくない。
そんな気持ちさえあった。

当時の彼らが音楽を始めた理由の大部分はテレビに映るミュージシャンへの憧れとただただ目立ちたいとかかっこいいだとかそんなものだった。
だからかっこよくないとわかっている姿を誰かに見られたくなかった。
それに初めてのライブはただただ自分たちの経験になればいいとも思っていた。

それなのにそのライブ当日。

ライブ会場には十九人もの彼らの友人が駆けつけていた。
ライブが決まったことを話していた友人が自ら他の友人に声をかけて、場所を調べて来てくれたのであった。
その状況はその時の彼らにとって喜びではなくて、驚きと緊張だった。

よく見せたい。

そんな感覚が体中を埋め尽くした。
そんな感覚の中でぎこちないMCと完成度の低いオリジナル曲を5曲歌った30分間。
それでも友人たちは真剣に聞いてくれていた。
そのぎこちないMCでさえ笑って聞いてくれていた。

でもステージを終えて、彼らに残ったのは恥ずかしさと悔しさ。
そうなることは分かっていた。
練習でもうまくいっていないものが本番のステージでうまくいくはずもなかった。
そしてこんなことを考えた。

「だから誰にも宣伝していなかったのに…。」

それでも感謝の気持ちを伝えようと彼らは客席にあいさつに向かった。

「ありがとうな。声かけてきてくれたん?」

少し申し訳なさそうにそう言うと友人たちは思いもよらない返事をした。

「めっちゃ良かったで!最後の曲特に良かったわ。なんて曲やっけ?」
「私は最初の曲が好きやったな。MCもおもろかったわ。」
「歌やっぱうまいよなー。俺もギター弾きたくなったなー。」

全てが賞賛の言葉だった。
そのステージで彼らは歌詞も間違えたし、ギターも間違えた。
声はひっくり返ったし、MCでは緊張を露わにした。
彼らの友人たちもそのことにもちろん気付いていた。

それなのに中には涙を流してくれている友人の姿さえあった。
その涙が何の涙なのかを聞くことは出来なかったけれどそれは確実に「辛さ」や「悲しさ」の涙ではなかった。
言うまでもなく「痛さ」の涙でもなかった。

彼らの友人たちは技術や歌唱力なんてものを聞いていたのではなくて、彼らさえまだ気付けていない心からの想いを感じ取ってくれていたのかもしれない。

趣味でただただ歌うこと。
うまいと言われたいから練習すること。
ステージの上で歌うこと、人前で歌うことがそれらとは違うことなんだと改めて感じさせられた。

その日から彼らの歌を歌いたい、届けたい理由は少しずつ変わっていったのであった。

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