第6話「正解」

面倒くさい。
今までの隼なら必ずそう感じていた。

でも。

頭に浮かぶのは楽しそうに話をする真紀の姿だった。
どうすればいいのかと考えながらも隼はその日着ていく服や夕食を食べる場所、会ったらまず何を言おうか、そんなことを考え始めていた。
考えれば考えるほどわからなくなり、答えのような不正解が頭の中にたくさん並んだ。
その列に割り込むようにどうしようもない苦しさが心を満たした。

「何やねんないったい…。」

そう言ってベッドの上で枕に顔をうずめた。
隼は初対面の相手にいろんな話をするような人が苦手だった。
苦手どころか馬鹿にしていた。
それなのに。
その気持ちは今まで感じたことのあるそれよりも大きなものだった。
隼はどうすればいいのか、何度も自分の中で正解を導き出そうとし続けた。
しかしその気持ちが向かうべき正しい場所など一人で枕に顔をうずめている隼にはわかるはずもなかった。
そんな正解からはほど遠い感情のままその日はやってきた。

当日の約束はメールで行われていた。
待ち合わせ場所は真紀にわかりやすいようにJR大阪駅を隼が指定した。

「何話そうかな。」

隼はそんなことを考えながら改札口の前で柱に背を持たれかけて、ただ時間を刻んでいるだけの携帯をさわっていた。

「隼くん!ごめん少し迷っちゃって。」

そう言いながら真紀が小走りで大きな荷物を抱えてやってきた。

「大阪ってみんな歩くの早くない?」
「そうかな。普通やと思うけど。」

隼は真紀の荷物を半分持ちながら、真紀が大阪に来て感じたことや昨日の出来事など、
話しかけられる様々なことに答え続けていた。
当たり障りのない返答を繰り返していた隼だったが、何を話そうかと悩んでいた隼にとって、それはその悩みをいつの間にか消していた。

店につき二人は案内された席に着いた。
店といっても以前、真紀と会った料亭のような場所であるはずはなく単なるファミリーレストランだった。
店員を呼び、隼が真紀の分も注文をした。

「ありがとう。」
「いや、そんなん聞いてたんを言っただけやから。」

真紀は微笑んで、またたくさんの話を始めた。
また同じようにその話を聞きながら答えていた隼だったが、その中には自分の変な癖の話や親の嫌なところなど、何でそんな話を自分にするんだろうと思うようなこともあった。
そんなこと言っても真紀にとってはプラスになどならない話だと隼は考えていた。

「真紀ちゃんって何でいつもそんないろんなことを話してしまうん?」

思わず隼が発した言葉で、楽しそうに話していた真紀が少し嫌な顔をした。

「何で?だめかな?」
「いやだめとかじゃないけどそんな俺に言っても真紀ちゃんにあんま良いことないこともあるのになって思って。」

真紀は少しの間黙っていた。
そして、何でそんなことが分からないのかと言いたげな口調でこう続けた。

「信用してもらいたいから、隼くんを信用していろんな話をしてるんだよ。自分にプラスとかマイナスとかそんなこと考えて話してるんじゃないし。別に聞きたくない話だったんならごめんね。もう話さないようにするから。」

隼は基本的に人を信用していなかった。
仲の良い友であってもそうだったように。
でもそれは同時に自分が人に信用してもらえないことなのだと真紀のその言葉が伝えていた。

「いやごめん!俺も真紀ちゃんに信用してもらいたいかな…。」

そんなことを考えているととっさにそんな言葉が口から出ていた。
真紀は一瞬驚いたような顔をしたが少しして、笑い出しこう言った。

「どういうこと?」
「いや。なんて言うかわからんけどそういう気持ちで話してくれてるんなら、真紀ちゃんに信用してもらいたいし、聞きたいというかなんて言ったらいいんかわからんけど…。」

真紀は笑顔になり、今度はこう言った。

「じゃあ隼くんの話して。」

にこにこしながら隼の話を待つ真紀。

「…ちょっと待ってや。もちろん話しするけどなんかそういうことじゃなくてさ。」

戸惑って恥ずかしそうにする隼を見ながら真紀は笑った。
隼も恥ずかしそうにしながら、真紀の笑顔を見て笑った。

「お待たせしました。」

その時食事が運ばれてきた。
隼にとって自分の話をすることはまだできなかった。

信用してもらいたい。

そうは思ったが自分が完全に信用するのはまだ先だと考えていた。
でも少しずつでもこの子にはいろんな話をしたいと隼はこの時思っていた。

今まで正解だと考えていたものよりも、そうできるようになることが自分にとって正解なのではないだろうかとも思い始めていた。

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