第18話「答えはない」<大作>

沙知へのバレンタインのお返しを孫の大輔と買いに行った帰り道に沙知の何が好きかと聞かれた大作は何も答えなかった。

でもそれは恥ずかしかったからとか、言いたくなかったからとかそんな理由ではなくて、そこに答えがなかったから。

50年以上も前に出会った大作と沙知。

今では三人の子供たちにたくさんの孫たちまでもがいる。
そんな大作は当たり前のように80歳を超えて、今では孫の名前は間違えてしまうし、物忘れはひどいし、買い物に行くには孫の手を借りねばならない。

それでも沙知とのことは何一つ忘れていなかった。

始めて話しをした会社の歓迎会。
ぎこちない会話をした付き合うことになった一日。
映画を見に行った日々。

沙知を送ったあの道も、プロポーズしたあの店も全て忘れていなかった。

もちろん沙知がチョコレートを好きなことも。

そんな大作の中に沙知の「何が好きなのか」なんて言葉は生まれるはずもなくなっていたのである。

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