第13話「大人だからこそ」

祐介の初めてのライブから数日が経過した平日の昼過ぎに祐介の携帯が鳴った。
浩司からだった。

「久しぶりやな。こんな時間にどうしたん?仕事中ちゃうん?」
「いやまあ特に何もないけど今移動中やから大丈夫やねん。」

二人とも久しぶりの電話に何かぎこちない雰囲気は多少あったが何てことのない会話が続いた。
しばらくすると浩司がこう切り出した。

「てか聞いたけどこないだライブしたんやろ?」
「…。おう、したで。」

知らないはずの浩司にそう聞かれ、祐介は一瞬詰まったがそう一言だけ簡単に返した。
祐介はその話を浩司が誰に聞いたのか、それさえ尋ねようとしなかった。
そんな祐介に浩司は続けた。

「言ってくれよー。言ってくれたら行けたかもしれんかったのに。どうやったん?」

祐介も本当はライブをするに至ったいきさつとか、どんな歌を歌ったのかとか、すごく緊張したことも浩司に話したかったし、聞いてもらいたかった。
今まで何かあればすぐに話していた二人にとって、それは安心を与えてくれるものだったから。

でも今はまだいろいろ進み始めたばかり。
言いかえればようやく進み始めただけの現状を浩司に話すことはなぜか出来なかった。

安心をここでもらうわけにはいかないと感じていた。
それは単純にプライドが邪魔をしただけだったのかもしれない。

「まあうまくは出来んかったわ。ミスばっかやったから。」
「そうかー。まあ初めてやったんやからしゃーないよな。」

浩司もその雰囲気を感じ取ったようだった。
その時祐介には電話口の向こうで浩司が何かを買っているような声が聞こえていた。

「コンビニおんの?」

祐介がそう尋ねた。

「おう、今から休憩がてら次の取引先に向かうねん。最近の昼飯は車の中でコンビニばっかやわ。」
「そか、大変やな。」
「まあしゃーないからな。」

そんなやりとりをしていると浩司が車に戻ったようでドアが閉まる音が聞こえた。
すると浩司が急に先日の居酒屋でのことを話し始めた。

「てかな、こないだは言い方が悪くてすまん。」

浩司は特に用もないのにこんな時間に電話したわけじゃなかった。
本当はあの日のことを早く解消したかった。

人は幼い頃、友達とケンカすれば必ず仲直りをしようとするし、大人にもそう教えられるのに、どうしてか月日が経つにつれてケンカやわだかまりを何となくでやり過ごすことが出来るようになることが人としての成長だと言われてしまうように思う。

ケンカしたことを後日話し始めると「子供じゃないんだから」とか「大人になろうよ」だなんて言われてしまう。

でも自分たちの関係はそれとは違うと感じていた。

どれだけ子供でもそれが心と心をつなげる理由になるのだから話さねばならないと感じていたし、今までもそうやってきたから。

「いや、俺のほうこそ悪かったと思ってる。俺は家にいれば飯は作ってもらえるし、別に朝は起きひんくても自分の問題だけやし、浩司はほんま頑張ってると思ってるねん。」

祐介のその言葉に浩司も自分が怠けてしまうことなど、お互いが相手のことを気遣いながらも本音で話し、二人のあの日のケンカは解消されていった。
そして祐介は自分自身の心にも響かせるように話した。

「俺は自分が尊敬してる友達が同じように夢を語ってる人らの中に埋もれていく姿を見たくないし、お前ならできるって信じてるから。電話したり、会うたびにこんなことも出来るようになったとか、今こんな楽しいことしてるねんって話ししたいねん。」

祐介はさらに続けた。

「俺はお前に絶対やれるって自信もらえたし、絶対やるから。だからとりあえず三年後楽しみにしようや。」

祐介の言葉を黙って聞いていた浩司は一言だけ返した。

「せやな、わかった。」

浩司はそれだけしか返さなかったがしっかりとその言葉を噛みしめてくれているのが祐介には伝わっていた。
同時に浩司は取引先に向かわねばならない時間になったようで最後に明るい声でこう言った。

「三年後楽しみやな。ほんならまた連絡するわ。」

祐介は切れた電話をすぐに置いて、ギターに持ち替えて下手くそな音色を精一杯かき鳴らし続けた。

この音色が三年後どんな音に変わっていくのだろうかとわくわくした表情で想像しながら。

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