第6話「旅立ち」

それからもそんな生活を続けていた二人だったがついにその日々にも終わりはやってきた。
浩司が東京に旅立つ日、祐介らいつもの三人は浩司を車で京都駅まで送っていった。
京都駅までの車中はいつものように笑い声が絶えなかった。
東京に就職する友人は他にもいたし、そもそも会えなくなるわけではない。

新幹線で三時間もかからない距離。

京都駅に着いてから新幹線の出発まで少し時間があったため、みんなで駅構内のラーメン屋で話しをしながら時間を潰した。

いつもと全く変わらない時間が流れていた。
いや今考えると四人全員がそう努めていただけだったのかもしれない。
普段集まっていたファミレスから解散するような軽い感覚で祐介らが改札の前で浩司を送り出そうと最後の話しをしていると急に浩司の様子が変わった。

「いつでも連絡取れるやん。恥ずかしい思いして携帯代えた成果はこれからやからな。」

その空気を和ませるように祐介がそう少し冗談交じりに笑いながら言った。
それでも浩司は愛想を浮かべるようなぎこちない表情で薄く笑って見せるだけだった。

そこからしばらく四人の間に今まで流れたことのない沈黙が訪れていた。

「まあゴールデンウィークには帰ってこれるんやろ?」

祐介がその沈黙をかき消そうと浩司に話しかけた。
そう言われた浩司は何も返さずに泣き始めた。

「なんでやねんな。もう一生会えへんみたいやんけ。」

そう言ったものの祐介は浩司が泣いているのを見たのは初めてだった。
みんなが和まそうと次々に浩司に声をかけたが浩司は溢れる感情を抑えられずに泣き続けた。

「みんなともっと遊びたかったわ…。もっと大切にしとけば良かったな…。」

浩司が泣きながらそう言った。
浩司にとって見知らぬ土地に行くことは心細かった。

でもそれ以上に、みんなと自由に遊べていた溢れんばかりの時間をもっと大切に過ごしていたら良かった、という後悔が胸を締め付けていた。

そしてしばらくしてから浩司は三人に前日書いてきたという手紙を渡した。
そんな手紙を渡された三人も溢れる感情を抑えられなくなっていた。

「…。やめろよなこんなん!ほんまにもう一生会えへんみたいやんけな。」

泣き声で詰まる喉を無理やり押さえつけるような声で祐介がそう言った。
そんな祐介に浩司が涙を服の袖で拭きながら近付いて声をかけた。

「絶対やってくれよ。お前なら絶対出来るって信じてるから。俺お前の歌好きやからな。」

自分たちは社会的には尊敬されるような姿を持っていないけれど、自分が尊敬し信頼できる友人がそう言ってくれたことは祐介にとってすごく大きかった。

「ありがとう…。わかった。絶対やるから浩司もほんま頑張れよ。」
「おう。当たり前やんけ。」

そう言って二人は握手を交わした。
あれだけ一緒にいた二人だったが握手を交わしたのはその時が初めてだった。

その後もしばらく泣き続けた四人。
その時の後悔の涙を必ず喜びの涙に変える日を約束して、浩司は東京へ旅立っていった。

人は誰しもそれが出来ないとわかっているのに「あの頃」に戻りたいと思うことがある。

でもそう思ってしまうことが悪いことなわけではない。

出来ないとわかっているのだから、そう思った「今」が「あの頃」になる前に。

この想いはこの時にもらったものだった。

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