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第8話「好きならば誰でも思えること」<大作>
「雨降ってるから送ってくわ。」
いつも別れる駅の前で映画を観終わった帰り、土砂降りの雨の中大作は沙知にそう声をかけた。
「そんな大丈夫です!
一人でも帰れますから。
ありがとうございます。」
慌てたようにそう言う沙知に大作は笑顔で答えた。
「一人でも大丈夫なら二人なら、なお大丈夫やな。
じゃあ行こか。」
その日から大作は雨が降っていても、降っていなくても沙知を家まで送っていくことにした。
当時は車もなく、沙知を送り届けた後大作は来た道を一人で戻り、電車に乗って家まで帰っていた。
しばらくそんな日々が続いていると大作も時に、次の日が早かったり疲れている日もあった。
それを理由に送っていかなかったところですぐに気を使う沙知は何も言うことはないだろうし、何も思わないだろう。
それでも送っていきたかったのはいつも別れ際に沙知が、
「ありがとう。」
と言いながら嬉しそうにしてくれていたから。
好きな人のそんな顔を見ていたいと思うこと。
沙知のためならいつの日までもそう思い続けられる。
沙知を送り届けて一人で駅まで向かう帰り道、大作はそんなことを考えていた。
その日は雨一つ降っていないよく晴れた月が綺麗な日だった。