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第1話「伝えなきゃ伝わらない」
「もう帰ろうか」
駅まで向かっている細い路地にあるラーメン屋のゴミ捨て場の前。
ずっともじもじしている彼女をよそになんてことない話をしている最中だった。
「好きだから付き合って欲しいです。」
そんな単純な言葉。
それなのにその言葉が口から出るためには頭で感じたその気持ちがまず足の先まで降りて足は震えて、しびれにも似たような感覚が覆い尽くす。
そしてようやくお腹まで上がってきたと思えばお腹は気持ち悪くなって、他の言葉たちもなかなか出なくなってくる。
そしてこわばった表情が喉まで上がってくるその言葉を下げては、また上げては下げて。
素敵な気持ちのはずなのにその気持ちはそんなふうに時には体調を悪くさせたり、頭をパンクさせたりさえする。
でもその気持ちに耐えられなくなって何も伝えなければ、ただただ体調を悪くさせただけ、頭をパンクさせただけ。
それじゃあもったいない。
振り絞って出したその言葉がその続きをくれる。
必ずしもうまくいくなんて、気の利いたことは言えないけれど伝えることで必ず続きは訪れる。
「こちらこそ付き合って下さい。」
そんな続きが訪れる可能性だってゼロじゃないから。
誰もいない真っ暗な駅近くの路地裏のラーメン屋のゴミ捨て場の前。
どんなとこだって別にいい。
綺麗に出来なくたっていい。
上手く言えなくたっていい。
伝えなきゃ伝わらないから。