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第10話「出会い」<大輔>
楽しい環境は変わることなく変えることもできずに続いていき、大輔は大学2回生になった。
その日も昼過ぎに目を覚まし、受けるべき授業はすでに終わっていた。
それに慌てることもなく冷蔵庫を開けて、冷たいウーロン茶を飲む。
大輔の母親は働きに出ているため、その時間は家には誰もいないことが普通だった。
そして当たり前のようにシャワーを浴びて、バイト先に向かうのである。
バイト先につくと休憩室で一人の女の子が店長と話していた。
大輔は様子を探りながらもその二人に挨拶をした。
「おお、おはよう。
あ、大輔今日から新しく入ってきた斉木美保(さいきみほ)さん。
お前と同い年やし仲良く頼むで~。」
店長のその言葉に大輔が反応する前に、紹介を受けたその子は立ち上がり挨拶をした。
「斉木美保といいます。
…あっ。」
美保は驚いた。
大輔は美保が中学生の頃、想いを寄せていた初恋の相手だった。
しっかり立ち上がりお辞儀をした美保を見て、自然と大輔もいつも以上に礼儀正しくお辞儀をしたが、すぐに大輔も美保のことに気づいた。
「久しぶり。
なんか変な感じやな。」
大輔がそう言うと美保も少し照れくさそうに答えた。
「久しぶり。
ここで働いてたんや。」
「せやねん。
そろそろ一年くらい働いてるわ。」
久しぶりの二人が交わすぎこちない会話に締めくくりをつけてあげるように店長が言った。
「同級生なんか。
いいやん~。
なおさらよろしく頼むで~大輔。」
「はい。」
その日からしばらくすると美保もバイト仲間との集まりに参加するようになった。
初めは気の使い合いだった関係も美保の礼儀正しいんだけれど愛くるしい笑顔がみんなとの距離をすぐに縮めていった。
「大輔、美保と同級生なんやろ?
当時仲良かったん?」
他のバイト仲間にそう聞かれて大輔が答える。
「いやそんな仲良いというほどではないなー。
正直そんな知らんねん。」
「そうなんかー。
でも良い子よな。」
「まあそうやな~。
感じは良いな。」
そう当たり障りのない返答でとぼけた大輔であったが、実は美保は大輔にとっても初恋の人だったのである。