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第15話「自分のため」<大輔>
大輔と美保が付き合い始めて一年が経っていた。
二人とも大学三回生を迎え、就職活動の季節に差し掛かっていて一年前のようにはバイトも入ることができず、会える機会も減っていた。
その日は約二週間ぶりに会える約束をしている日だった。
ほぼ毎日会っていた二人にとって二週間という時間は長かった。
大輔の家から美保の家までは車で15分ほどの距離だったので、付き合い出した当初から免許を持っていない美保のために大輔が美保の家まで迎えに行くというのが当たり前になっていた。
いつものように大輔は車で美保の家に向かおうと思った時、その15分の道のりが遠く面倒くさいものに感じられた。
「やらなきゃいけないことがある。」
「今日は家でテレビでも見ながら家族とゆっくりしたい。」
そんな想いが頭をよぎった。
就職活動が始まってはいたものの、二週間の間会う約束をしなかったのは大輔のこういう気持ちのせいでもあった。
それでも約束を破るわけにはいかないと大輔は美保の家に向かった。
大輔が美保の家に着くと開口一番美保が嬉しそうに言った。
「今日はどこ行く?」
その美保に大輔も答える。
「どこでもええよ。
どっか行きたいところあるん?」
「うーん、映画とかはどうかな?
今日は時間もあるし、遊園地とかでも行けるなら行きたいけど。
大輔は?」
楽しそうな美保とはうって変わり、大輔は少し面倒くさそうにネガティブに答えた。
「映画なー、今どんなんやってるか全く知らんからな。
遊園地は今日とか日曜やしめっちゃ混んでるんちゃう?」
久しぶりなのにそんな大輔の様子に美保は気分を落として問いかけた。
「じゃあ大輔はどこ行きたいん?」
「うーん。
せやなー…。」
煮え切らない大輔の態度に美保は苛立ったかのように、でも寂しそうに何も言わなくなった。
その美保の様子を察して、大輔もすかさず態度を変えて慌てて話し出した。
「ごめん行きたくないとかじゃないんやで!
映画行こう!
何やってるかわからんくても行ってから決めたらいいしな!」
その場はなんとか美保も機嫌を治してくれて、二人は映画を見に行った。
大輔は美保との時間が決して楽しくないと感じていたわけではなかった。
映画を見たその日も楽しそうにしている美保と見た後に二人で話をしている時間が楽しかった。
でもそれは大輔にとって、単に「美保のため」だった。
それから日を追っても大輔にとって、大輔が「美保のため」にしてあげることは「自分のため」になることはなく、面倒な思いがよぎることも少なくなかった。
過ぎていく時間は二人の関係を繰り返し育んでいくのではなく、少しずつ
「美保のため」は「美保のため」のままだった。
そして少ししてから大輔は美保に別れを告げた。
いつしか「相手のため」という想いは面倒で、その気持ちは単なる相手のわがままのように感じられてしまう。
別れた帰り道、大輔はそんなことを考えながら美保の涙を頭に浮かべていた。