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第17話「あなたの足になる」<大輔>
それから一か月が過ぎたころ、大輔がいつものように二人のもとを訪ねるとおじいちゃんがこっそりと大輔に耳打ちするように小声で話しかけた。
「大輔、ちょっと百貨店に行きたいから連れて行ってくれへんか?。」
「今日?
いいけど何買うん?」
そう言われておじいちゃんは少し戸惑ったように、恥ずかしそうに答えた。
「おばあちゃんにバレンタインのお返し買いに行きたいねん。」
そう言われて大輔は驚きとともに心の中がすごく温かくなる、少し熱くすらなるような感覚を覚えた。
でもそれを出すまいと平然と答えた。
「そか、いいよ。
今から行く?」
平然と答えたのは大輔もどこか恥ずかしかったその気持ちをどうしてか隠したかったから。
「ばあちゃん、ちょっとじいちゃんと買い物行ってくるわ。」
おばあちゃんにそう簡単に伝えて、二人は買い物に出かけた。
家から百貨店はすぐの場所だった。
それでも足の悪いおじいちゃんのために二人は車で向かっていた。
「じいちゃん、何買うん?」
行きの道中、そう尋ねられておじいちゃんはしばらく黙っていたがゆっくりした口調で答えた。
「チョコレートを買いたいねん。」
その答えに大輔がチョコレートのお返しにチョコレートを買うなんて変だなというような顔をすると、その様子を感じ取っておじいちゃんが付け足した。
「おばあちゃん、チョコレートが一番好きやから。」
そう言われて大輔は理解して、簡単に一言だけ返した。
「そっか。」
そして、おじいちゃんの車いすを押しながら百貨店の地下にある食品売り場でチョコレートを選んだ。
「やっぱ高いやつのほうがうまいよな?」
そんなことを尋ねられながらも二人で何とか決めて買った。
大輔は大丈夫だと断ったが連れて来てくれたお礼だと言って、おじいちゃんは大輔にも高級なチョコレートを買ってくれた。
その帰り道、大輔はふとこんな質問をした。
「じいちゃんはばあちゃんの何が好きなん?」
その質問におじいちゃんは何も答えなかった。
答えは返ってこなかったが大輔も答えは返ってこなくてもおじいちゃんの気持ちは何となくわかる気がしたし、何となく返ってこないこともわかっていたので特には気にしなかった。
そのままおじいちゃんを家に送り届けて、大輔も実家に戻った。
その年から、大輔がホワイトデーの日におじいちゃんと買い物に行くことは当たり前になっていったのであった。