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第5話「邪魔だけど」<大作>
次の日もその次の日も二人は顔を合わせたが大作は今までと同じように接するように努めていた。
挨拶する時、資料を手渡す時、仕事を教える時、いつの時もぎこちなくならないように言い方や表情にも気を使った。
でも本当はどうすればいいのかが分からなかった。
沙知からの手紙には食事の誘いや電話番号は書かれておらず、一方的に好きだという気持ちだけで、大作からの返事を具体的に求めているものではないようにも感じられた。
それでもそれは大作の言い訳のような気持ちでもあり、返事を求めることなくラブレターを手渡すことなんてないことももちろんわかっていた。
大作はどうすればいいのかわからない気持ちなりにも誠実に、断るための手紙を仕事帰りの深夜に書き始めていた。
「なんて書けばいいんやろか…」
明日も朝から仕事のある大作にとって、その悩みは仕事を邪魔するものであり、やっぱり今の自分の生活を邪魔するものであった。
「でも書いてどうやって渡そうかな。
あーもうめんどくさいな。」
まだ風呂にも入っていない頭をかきながら、早く眠りたいと時計を睨みながら過ぎていく深夜の時間。
でもその時大作は気づいていなかったがその時間は大作にとって久しぶりに仕事以外のことを考えている時間になっていた。
次の日、大作は帰り際の沙知を呼び止めてその手紙を渡した。
「これこないだの手紙の返事書いたから読んで。」
想ってもらった気持に答えられないという断りの内容ではあったが、丁寧で誠実な内容の手紙だった。
その手紙を渡した帰り道。
「あの子あの手紙読んでどう思ったかな。」
そんなことを考えていると、大作はずっと沙知のことを考えていた。
そんな時間はどんどん過ぎていき、気付けばその時間は前日の夜よりも遅い時間になっていた。
日が経つにつれて、大作は沙知の様子が気になってしまっていた。
挨拶する時、資料を手渡す時、仕事を教える時、いつの時もぎこちなくなっている自分がいた。
そこには仕事にしっかりと打ちこめていない自分さえいた。
それなのに沙知はいつもと変わらないように見えた。
いつものように礼儀正しくて、いつものようにしっかりと仕事をこなしていた。
そして。
いつものように笑顔がかわいかった。
その姿を見ていると大作は逆にまるで自分が恋い焦がれた相手にラブレターを渡したような感覚になっていた。
そんな日がしばらく続いていると沙知のことを考える時間は日に日に多くなっていった。
さらには他の人と話しをして、楽しそうにかわいく笑っている姿をあまりよく感じられなくさえなってきていた。
沙知のことを考えているその時間は何の変化もない毎日を過ごしていた大作にとってドキドキと刺激を与えてくれるものでありながら、心を癒してくれるものになっていた。
それからしばらく経ったある日の仕事終わりに大作はいてもたってもいられなくなり、沙知を食事に誘った。