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第6話「好きという気持ち」<大作>
沙知は驚きながらも食事の誘いを喜んで受けてくれた。
それでもなぜ食事に誘われたのか状況が飲み込めない沙知と、どうすればいいかわからなくぎこちない大作の二人の時間はほとんど話しもしないままに過ぎていた。
周りで食事をする人の話し声がまるでなんとかその場を繋いでくれているかのように二人の間に流れていた。
しかし、その流れを何とか断ち切ろうと勇気を出して声を出した。
「あの…。」
二人同時だった。
そのタイミングしかないと思った。
そのタイミングが限界のような、二人ともそんな感覚だったから。
絵に書いたような緊張が作り出したその状況は二人の緊張をひも解いてくれた。
まず沙知が笑い、大作も笑った。
「気まずすぎるよな。緊張しててごめん。」
大作がそう言うと沙知は笑いながら首を横に振った。
「いや、なんて言うかその…。
こないだは手紙ありがとう。」
「いえそんな、こちらこそありがとうございます。」
沙知は断りの手紙を返した大作に対して、そう丁寧に返した。
さらに大作は続けた。
「嬉しかったけど断りの手紙でごめんね。」
沙知は黙って聞いていたが一体何を言われるのだろうと落ち着かない気持ちになってきていた。
改めてまたしっかりと振られるのだろうかと。
「俺ずっと仕事しかなくて、なんていうかその、手紙をもらって嬉しかったんやけど自分には関係ないことみたいに思えて。
だから断ることしか頭になかったんやけど、あれからすごい考えるようになってしまって。なんやろか、その…。」
大作は言葉に詰まったが沙知は不安そうに、でも大作の目を見ながら黙って話しを聞いていた。
また少し沈黙が訪れたが大作は心を決めて話し始めた。
「この年齢で恥ずかしいけど田中さんが他の人と楽しそうに話してるの見てるともどかしくなってきて、仕事があんまり手につかへんねんな。
だからその何ていうかその…。
あーもうごめん!もうあかんなー。
回りくどく言うのやめるわ。」
そう言うと大作も沙知の目を見て真剣に言った。
「好きなんで僕とお付き合いしてくれませんか?」
そう言って大作はほんの少しの間我慢していたが耐えられなくなって付け足した。
「ごめん!俺やっぱこういうのあかんわ。どうかな?」
慌てて照れ隠しをする大作を沙知は驚いた表情で見ていた。
照れ隠しをした大作だったがもう一言だけ付け足した。
「急でよくわからんかも知らんけど今の俺のほんまの気持ちやから。」
正直なところこの時お互いまだどんな人かなんてわかっていなかった。
でも沙知は優しく気を使って話しかけてくれた大作に「好き」だという感情を持った。
実は誠実な断りの手紙にもさらに惹かれていた。
大作はもちろん告白されたことでさらに意識をしたということもあったけれど、その沙知のかわいい笑顔と礼儀正しいところを「好き」だと思った。
何より二人ともその日が楽しかった。
少ししてから沙知も言葉を返した。
「もちろん、私は今も好きですよ。」
動くことで始まることがある「好き」という気持ち。
そこから二人の付き合いは始まった。