第11話「一瞬の出来事」

「おはよう。今から学校行ってくるわ。」

そんな何気ないメールを隼は真紀によく送るようになった。
真紀からの返信も早かった。

「寝ないでちゃんと授業受けなきゃだめだよ。大学行かなきゃだめなんだからね。」

隼と真紀は付き合い始めた頃から同じ大学に通おうと約束していた。
二人で国立大学を目指して一緒に通おうと。
そのメールを見て隼は心が痛んだ。

「真紀もちゃんと勉強するんやで。ほな行ってきます。」

隼は授業中眠ることはなくなっていたが、もちろん集中なんてできなかった。
そんな気持ちの中で隼はこれから真紀には必ず全てを話し、何があっても信用すると心に決めていた。
そんな日々がしばらく続いた。

その日はやけに雨の降る日だった。
昼を過ぎても真紀からのメールの返信がないことを少し心配しながらも隼はいつものように部屋で勉強をしていた。
集中して勉強しているはずだったが気付けば寝てしまっていた。
その時家の電話が鳴った。
雨がひどく、湿気のせいかその音はやけに重く感じられた。
隼のお母さんが電話に出たようでそのコールは止まった。
隼はまだ半分夢の中にいた。
しばらくしてお母さんが部屋に入ってきた。
隼はまだ覚めきらないながらもそのことを感じることができた。

「今真紀ちゃんのお母さんから電話があってね。」

そのお母さんの声は小さかったが、夢の中にいる隼を現実世界へ引っ張り出すようなものだった。
そして隼にお母さんは続けた。

「真紀ちゃん今朝亡くなっちゃったんだって…。」

顔をしかめるお母さんを見て、一体何が起こったのか隼はわからなくなっていた。

「どういうこと?」

混乱した表情でそう聞き返した隼にお母さんは何も言わなかった。
何も言わずに隼を抱きしめていた。
現実と夢の狭間でこれは夢なのだと言い聞かせ続けていたからだろうか。
そのあと隼は自分が何をしていたのかを全く覚えていなかった。

全てが一瞬の出来事に感じられた。

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