第7話「変わり始めたもの」

それから二人は毎日メールでやり取りを行い、一か月に一度大阪か岐阜で会うようになった。
そんな日々が続き二人は高校二年生になった。

その日は隼が岐阜に行く日だった。
出会ってから月日は半年を過ぎていたが高校生にとって大阪と岐阜の遠距離はあまりにも遠かった。
会えるのもたった一か月に一回だけ。
電話代もかかるので連絡は基本的にメールだけだった。
二人の関係は少しずつ縮まってはいたが、まだちゃんと付き合おうという話すらしていないままだった。
隼は電車に乗って京都まで出てから新幹線に乗り換え、岐阜羽島駅まで行って電車で岐阜駅に向かった。
駅には真紀が迎えに来てくれていた。

「隼くん今日は家で映画見よう!」

隼の到着を待ち切れなかったように第一声で真紀が楽しそうに言った。

「ええよ。何見るん?」

その映画はその前年人気の韓国映画だった。
しかしその当時隼はほとんど映画など見なかったのでその映画を知らなかった。

「いや、知らんわ。どんな映画なん?」
「見るんだから後で。」

微笑む真紀に連れられて、二人は真紀の家まで歩いて向かった。
真紀の家は駅からすぐだった。

「ただいまー。」
「おかえり。隼くんもいらっしゃい。」

真紀のお母さんも隼が来ることを知っていたようで笑顔で出迎えてくれた。

「お邪魔します。」

隼は緊張した面持ちでそう一言だけ言って案内され、一人先に真紀の部屋に入った。
真紀の部屋は特にかわいいわけでもなく、特別にきれいに片付けられているというわけでもなかったが居心地が良い部屋だった。

「大丈夫だから。はい、ありがとう。」

そう聞こえたと思うとお母さんからジュースとお菓子を受け取り、真紀が部屋に入ってきた。

「そんなんええのに。ありがとう。」
「いいから。食べながら見ようよ。」

そう言って真紀はテレビをつけて、借りてきていたビデオを入れた。

「真紀ちゃんは見たことあんの?」
「うん、見たことある。良かったから隼君にも見てほしいなーと思って。というか真紀ちゃんってちゃん付けで呼ぶのやめない?私も隼って呼ぶから。」
「わかった。そうするようにするわ。」

急にそう言われて戸惑ったが、その感情を押し殺し、当り前かのように答えた隼だったが映画のことよりもそのことのほうがずっと気になっていた。
しかし真紀はそんなことは気にもかけていないように映画を流し始めた。

その映画は韓国映画らしいよくある恋愛物語だった。
男女が出会い、付き合うことになり、二人は試練を乗り越えていく。
隼はこの物語を見ていて真紀はどんな事を思ってみているのだろうかと気になっていた。
自分たちは付き合っているということでいいんだろうか。

「次どうなるか言っちゃおうか?」

隼がそんなことを考えていると、真紀がいたずらをする子供のような顔で言った。

「なんでやねん。言ったらあかんで。」

隼も微笑みながら返した。

「どうだった??」

映画が終わり、エンドロールが流れ始めてすぐに真紀は隼に聞いた。

「まあおもしろかったで。何かいろいろ考えもしたけど。」
「いろいろって?」

不安そうな顔で真紀は聞き返した。

「いや、何か俺らってなんやろか、結構月日経ってるけどその…。あれやん?付き合ってんのかなって考えてもうてさ。」
「え?」

驚いたような声を出したあと、真紀は隼に向って微笑んで見せた。

「付き合ってなかったらこんな風に会うわけないじゃん。飲み物取ってくるね。」

そう言うと真紀は恥ずかしさを紛らわすように階段を速足で降りて行った。
その瞬間隼の中で真紀は自分の彼女なんだと実感することができた。

彼女。

真紀は隼にとっての初めての彼女だった。
真紀のことなら「信用」できる。
真紀にならたくさんの話をしたい。
隼はそう思い始めていた。
真紀が下に降りて行ったあと隼は嬉しさと恥ずかしさを必死に隠すように窓から見える晴れ渡った空を眺めていた。

さっきまで見ていた恋愛映画よりもありきたりな幸せな顔で。

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