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第3話「あやふやな将来」
携帯を代えてからはさらにそれぞれが連絡を取る機会は増えた。
その中でも祐介と浩司は同じバイト先で働いていたことや、家が近かったこともあり、特によく連絡を取るようになっていた。
しかし、新しく代えた携帯は話し放題だとは言っても、実は一つだけ制約があった。
それは夜九時から深夜一時までは通常通り通話料がかかるというものだった。
その制約は携帯ショップで受けた説明の中で四人が最も引っかかったものでもあった。
しかし最終的に何とかなるだろうということで納得した。
もちろんそうは言ってもその制約のせいもあり、深夜1時ちょうどに電話が鳴ることが多くなっていた。
「どうしたん?」
「いや、特に何もないけど何してるんかなって思って。」
「ほんならコンビニでも行こうや。」
「おっけー行くわ。」
まるで決められたセリフのように交わされるいつもの電話でのやり取り。
静まり返った実家のドアをゆっくりと開けて、開けた時よりもさらにゆっくりと閉める。
ほぼ寝巻きのような姿で、その日も迎えに来た浩司の車に祐介が乗り込み、何の用もないコンビニで少し雑誌を立ち読みして、駐車場の車の中でコーヒーやジュースを飲みながら話しをする。
ガソリン代がもったいないから窓は開けっ放しで、蚊に刺されるのに我慢できなくなったら窓を閉める。
それを繰り返す。
「後二年で卒業やな。そろそろ就活かー。二年後俺ら何してんねやろな。」
浩司がそう話し始めた。
大学に入って日が経つにつれて、そんな風に将来の話しをする機会は増えていた。
「ほんまどうなってるかわからんな。こんなことしてないことは確かやけど。まあしてないっていうか、できひんやろけどな。」
祐介がそう答えて、しばらく二人は深夜の国道を走り去っていく車の音だけを聞いていた。
それくらいの時間になると大型のトラックの交通が増えて、車の数は少ないが一台一台の音量が大きい。
人通りのない静かな深夜の国道で低く響くようなその音はどこか寂しくすら聞こえている。
そんな中で黙って二人は自分たちがやりたいこと、それに対する今の生活そしてその先のことを考えていた。
でもその時二人が頭に巡らせていることの全てが明確ではなくてあやふやなものだった。
そんなことじゃ駄目なことくらいはわかっていた。
二人共もう二十一歳。
世間では大人だと認められる姿を手にしていた。
それなのに心は子供のまま。
正確に言うと子供とは違うのだけれど、一緒だと言われればそれまでのようなそんな不安定な心。
それでもそんな二人には夢があった。
祐介は高校生の頃から歌を歌うことが好きで、将来のことを尋ねられるたびに「歌手になりたい」と口にしていた。
浩司も将来は会社を興して「社長になりたい」としばしば口にしていた。
でも二人がその将来のためにやっていることは全くと言っていいほどなかったし、具体的な知識もなかった。
「ほんなら帰ろうか。」
時間は朝五時を回ろうとしていた。
こうして今日も一日が終わる。
二人の耳には確実に「諦める日」へのカウントダウンが聞こえていた。
大学卒業まで後一年半。
それでもまだ聞こえないふりをしながら。