第1話「大切な時間」

「どうしたん?」
「いや、特に何もないけど何してるんかなって思って。」
「ほんならコンビニでも行こうや。」
「おっけー行くわ。」

まるで決められたセリフのように交わされるいつもの電話でのやり取り。
その時間は今日も深夜一時を回っていた。

静まり返った実家のドアをゆっくりと開けて、開けた時よりもさらにゆっくりと閉める。
ほぼ寝巻きのような姿で、迎えに来てくれた車に乗り込み、何の用もないコンビニで少し雑誌を立ち読みして、駐車場の車の中でコーヒーやジュースを飲みながら話しをする。
ガソリン代がもったいないから窓は開けっ放しで、蚊に刺されるのに我慢できなくなったら窓を閉める。

それを繰り返す。

その会話の内容の薄さは自分たちでもわかっているがそれが面白かった。
そして朝五時前になるといつものように解散する。
すでに辺りを照らし始めている太陽の光はどこか心地良さすら漂わせていたように思う。
その時間は二人にとって当たり前で何てことはない時間だったけれど、とても大切な時間だった。

「ほんならまた明日。」

その時は二人ともその時間がずっと続いていくような、そんな気がしていた。

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