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第4話「一秒の積み重ね」
それからも二人はほとんど変わらない日々を過ごして、そのまま大学三回生の終わりを迎えていた。
それでもその頃になるとさすがに祐介も浩司も何かせねばならないと少しずつ気持ちの変化は起こり始めていて、祐介は歌手になるためのオーディションを受けに行き始めた。
浩司も「経営とは?」なんていうビジネス本を読み始めた。
でも祐介はそのオーディションのために練習をしていたわけではなかったし、浩司の手元には読みかけの本が増えていくばかりだった。
いわゆる「単発的」な行動。
変わろうと歩き出した心にそれまでの楽な生活に慣れた体がついてきてはくれず、「継続」という言葉を嫌がった。
大学に入学した時、四年という月日はかなり長いように感じられた。
四年も歩き続ければどこへだって行けると思っていた。
誰もが一秒の短さを知っている。
一秒が六十回積み重ねられて一分になる。
同じように一分は積み重ねられて、一時間になる。
それが一日を作る。
その一日が一年を作って、一年が約八十回積み重なったとき人は一生を終える。
人生は一秒の積み重ね。
そんなこと誰だって知っている。
もちろん祐介と浩司も。
でもその一秒という時間を自分で進むのか、それとも流されるのか。
自分で進むことが出来たなら、一秒という短い時間の大切さに気づけるのだろう。
そう考え、進むことができていたなら四年という月日をすごく短く感じたのかもしれない。
ただただ流されていた祐介と浩司には、そんなことを考える余裕すらなかった。
進んでいく月日の中でただただ流され、同じ場所を行ったり来たりしながら、変わることのない景色に焦りながらもどこかでその見慣れた景色に安心を与えられる。
同時にその安心が二人の進もうとしている心の肩を引っ張っていた。
そんな日々が続く中。
ある日の深夜のコンビニには髪の毛をリクルートカットしてきた浩司の姿があった。
「俺就活始めるわ。」
その言葉は浩司の口から聞こえているのにどうしても浩司の言葉には聞こえなかった。
それは祐介にだけじゃなく、浩司にも同様にそう感じられていた。
その日も朝五時頃までたわいもない話しを続ける二人。
二人にとってこの何てことない時間は大学の始めからずっと「継続」されていた。
どうして継続出来ていたのかは簡単なことだった。
その時間は誰に流されるわけもなく、自分たちで流していたから。
その大切さにその頃の二人はまだ気づけていなかった。