第5話「自分で流す時間」

浩司が就職活動を始めてから二人が深夜のコンビニに集まる機会は徐々に減っていった。
その機会に合わせるように祐介は初めてボイストレーニングに通い始めた。

社会の流れに逆らえず就職活動を始めた浩司と、その姿に追い込まれる形でボイストレーニングに通い始めた祐介ではあったが、それはそれぞれが自分で選んだ道であり、ようやく自分で進み始めた時間だった。

しかし二人が歩き出したその道は当たり前のように平たんな道のりのわけもなく、うまくは進めなかった。
浩司の就職活動はなかなか面接にすら進むことはできず、面接に進めたとしても採用には至らなかった。
祐介もボイストレーニングをすることで自分の置かれている状況を認識し、うまくいかないことに愕然とする日々だった。

でもその時の二人にその道以外を歩くことは考えられなかったし、夢への気持ちは嘘じゃなかった。
それにようやく歩き出した道を投げ出すことはしたくなかった。

それからしばらくして浩司はなんとか就職を決めることができた。
そしてそれは同時に東京に行くことも決めていた。

浩司は働きたい会社に入ることはできなかったけれど、期間を定めて働くことを決めていたし、それまでのだらけた生活を考えると無理はないと感じていた。

祐介はそんな浩司の姿を見て、自分の置かれている状況に焦りを感じながらも心から祝福をした。

浩司の就職が決まると二人はまた同じような生活を始めた。

そこで話す内容は今までと何ら変わりはなかったけれど限りあることを教えられた二人のその時間はそれまでのそれとは違っていた。

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