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第6話「心のズレ」
次の日も夜十一時を超えても太一からの連絡はなかった。
その状況にいてもたってもいられなくなった恵美はついに自分から電話をかけた。
その電話に太一は出なかったがその約五分後恵美の携帯に太一からの電話が鳴った。
「もしもし?」
その電話に恵美は少し苛立ったように出た。
「ごめんーちょうど今終わったわ。昨日も出来んくてごめんなー。」
「昨日は何で電話してくれなかったの?」
「昨日も終わったのが今日くらいやったからもう寝てると思ってやめといてん。」
「待ってたからメールくらい入れてくれても良かったのに。」
「ごめん。また連絡するって言ってたから電話しようと思っててな。」
「別にもういいけど。」
不安が生み出した苛立ちと投げやり。
たとえ見えなくても、たとえ聞こえなくてもそこにはちゃんと理由があったのにわからないその状況はそんな言葉を恵美に喋らせた。
そんな時の頭はどうしてかいつもよりも必要のないことまで次々と言葉を喋らせる。
「というか昨日一緒に帰ってた人は誰?」
「えっと、会社の後輩やけどそう言わんかったっけ?」
「そういえば言ってたかもね。もうとりあえず今日は遅いから切るね。おやすみ。」
そうして電話は切れた。
会社の後輩。
そんなことは昨日聞いたし、何かを疑っていたわけでもない。
離れている不安が生み出した気持ちがそんなどうでもいいことをもう一度聞かせた。
近くにいたころはこんなことは何でもない話で、むしろ単なる笑い話だった。
姿が見えないだけ、声が聞こえないだけでこんなにもわからなくなってしまう。
信頼していないわけではない。
でも離れてしまった距離はどうしてか心も離れてしまっているかのように感じさせて、信頼の気持ちは不安に覆いかぶさられる。
そして苛立ちと投げやりを生み出す。
次の日も夜遅くなっても太一からの連絡はなかった。
それは昨日までのことが全て本当なのだという証明にも受け取れたが恵美にとってその時間は耐え難いものだった。
それでも毎日の日々、そして翌日訪れるいつもの日々はその日も睡眠という名の生活習慣を変えることはさせなかった。
翌朝いつも通りの時間に目を覚まし、気付けば眠っていた自分と変わらない日々にうんざりしながらも恵美の携帯には太一からのメールが入っていた。
「ごめん今日も遅くなってしまった。また明日連絡するわ。おやすみ。」
そんな簡単な文章。
いつも通りの感じで特に絵文字が入っていたわけでもない。
それでも本当に単純な話だけれどそれだけでやっぱり少し頑張れた。
その日恵美はいつもよりも一本早い電車に乗った。